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陸上競技場の他目的転換事例

スタジアム・アリーナ

近年、陸上競技場を他競技向けのスタジアムへと転換する事例が増えている。日本でも等々力陸上競技場の球技場化など、複数の転換計画が進んでいる。

では、どれだけの転換事例があるのか?調べてみたい。

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国内の事例

国内においては転換事例は少ない。しかしながら、現時点でも事例は存在する。

まず挙げたいのは神奈川県相模原市にある横山公園陸上競技場の転換事例だ。

昭和53年に日本陸上競技連盟の3種公認陸上競技場として供用開始したが、基準改正により公式大会が行えなくなり、改修かフットボール場化を検討した末、トラックを撤去し、フィールド全体が人工芝に置き換わった。
あくまで、プロが使わない地方の小規模な陸上競技場とは言えど、陸上競技場が置き換わったことは特筆すべきだろう。

特殊な例では、味の素スタジアムが有名だ。

味の素スタジアム(東京スタジアム)は元々から陸上競技場ができるような設計で作られており、開場当初から球技場として扱われてはいたものの、陸上用トラックのスペースは確保されていた。そこから2011年にようやく陸上競技場としての工事がスタート。日本陸連第1種公認の陸上競技場となった。

しかしながら、人工芝を剥がすコストがかかる上、国際大会は近隣の日産スタジアムや国立競技場で行われる事が多いことに加えて、地方大会は隣接のAGFフィールドで十分という、帯に短し襷に長し的状況に陥った結果、2017年をもって陸上競技場の公認を取り下げて、陸上競技場としての役目を解かれた。
事実上ではあるが、球技場→陸上競技場→球技場という希有な変化を遂げているが、サッカーをするにはスタンドからフィールドが遠いという問題を抱え続けている。

日本において、陸上競技場から球技場への転換はこのように事例が少ない。

個人的な考えではあるが、日本におけるサッカー・Jリーグ人気は後塵を拝している状況が影響をしているのではないかと考える。日本においては野球が人気であり、2024年の調査によれば、プロ野球のファン推計人数は2,210万人を超えるが、Jリーグは952万人と半分以下である。また、高校野球の人気も夏の風物詩となるほどに高いことも影響しているだろう。
また、日本のスポーツ施設は国民スポーツ大会(旧:国民体育大会)の関係により大会ごとに高スペックの陸上競技場を建設することも多い。その中で、球技と陸上競技どちらのニーズも満たす多目的スタジアムとしてサッカー場が陸上競技場に集約されてしまっているという考え方もできる。

海外の事例

海外ではどうか?海外ではサッカーやラグビーといったフットボール競技が日本以上に人気ということもあり、積極的な置き換えが行われている印象がある。

今回調査しただけで10以上の事例が見つかった。その中で、いくつか特筆したい。

フットボール場への転換事例

まず、スペインのレアレ・アレーナ(エスタディオ・アノエタ)だ。

かつてあった陸上競技場に置き換わるように建てられた3万人収容のスタジアムは、陸上競技やラグビーなど、他競技が行えるようにトラックが設置され、実際に最初の開催イベントは欧州ジュニア陸上選手権であった。
その後、2004年、2007年に陸上競技用トラックの撤去の機運が高まるが実現に至らず、2015年、最初の計画から11年越しにトラック撤去が決定し、2019年10月に改修が完了。4万人以上収容のフットボール専用スタジアムが完成した。以降、レアル・ソシエダの本拠地として活躍している。

ドイツのヴェーザーシュタディオンもかつては陸上競技場であった。

1947年に開場。ドイツ陸上選手権やヨーロピアンカップが開催されるなど、国際大会も行われるような陸上競技場としても多用されてきた。
2000年7月、2006年のFIFAワールドカップの開催地がドイツに決まると、招致に向けて改修を計画。ワールドカップの開催スタジアムという夢こそかなえられなかったが、段階的にトラックを撤去し、最終的にはサッカー専用スタジアムへと生まれ変わった。

これ以外にもヴァルトシュタディオンニーダーザクセンシュタディオンもワールドカップを理由に陸上競技場からフットボール場に転換。こちらはワールドカップの会場に選出された。

その他競技への転換事例

スタジアム・オーストラリアは陸上競技場よりも多目的に使用できるようになった例であろう。

シドニーオリンピック開催のために建てられたこのスタジアムは、11万人収容という空前絶後の巨大競技場として、五輪メインスタジアムとして活躍した。しかし、2003年にラグビーワールドカップが開催される関係上、陸上トラックを撤去して、全天然芝の球技場化を決定。その際、8万人収容に規模を減らした。一時は経営危機にも陥ったが球技場化により危機を脱している。

このスタジアムについて特筆すべきは、メインスタンドとバックスタンドの1階部分が前後に動くことであるだろう。

オーストラリアではラグビー、サッカー以外にも、オーストラリアンフットボールやクリケットが人気であり、それらはラグビー以上にフィールドの広さが必要である。そのため、ラグビー場とクリケット場は別で建てられることが多かったが、この可動スタンドによりオーストラリアで盛んな球技のほぼすべてを開催できるようになった。

メキシコ・ハリスコ州のエスタディオ・テルメックス・アトレティスモは野球場に変化した。

エスタディオ・テルメックス・アトレティスモは2011年パンアメリカン競技大会のために1万人収容の陸上競技場として建設。しかし、陸上競技場としてはあまり使用されず、プロ野球ウィンターリーグ球団の身売りにより、ハリスコに球団が移転すると、メインスタンド以外のスタンドを取り壊し、新規に野球用のスタンドやフェンスを設け、1.5万人収容の野球場であるエスタディオ・チャロス・デ・ハリスコに生まれ変わった。改修後はWBSCプレミア12などの国際大会が行われるようになった
形状としてはメインスタンドを転用したために、横長という野球場では珍しい形状ではあるが、メキシコ最大級の野球場として機能している。

メリット・デメリット

メリット

陸上競技場を他競技に転換するメリットは多くある。

まずは経済効果が大きい。フットボール場にするとすれば、数万人の動員が月何回も期待できる。また、全国各地の対戦相手のファンが訪れることもあるため、スポーツツーリズムの効果もあり、フットボールによる経済活性化効果もある陸上競技は国際選手権が行われると数万人の観客動員が期待できるが、国内大会・地域大会では観客動員数にあまり期待できない。実際、日本選手権の観客数は数日間の開催で数万人が関の山だ。J1リーグが2~3試合、J2リーグでも5~6試合やれば集まる人数だ。

それに合わせて、少ないスペースで多くの利益を挙げられることも利点だ。陸上競技場は縦110m×横190mはフィールドとして必要である。しかし、サッカー場であれば、縦80m×横115mあればサッカー場として成り立つ。
実際問題、日本最大級の陸上競技場の日産スタジアムのフィールド部分にフクダ電子アリーナなどのコンパクトなサッカー場はスタンド含めてすっぽりと入ると言われている。また、サッカーやラグビーといったフットボールはプロとして成熟し、定期的な集客もできるため、場内に様々なサービス施設が設置しやすいという利点もある。

陸上競技そのものにも効果がある。フットボール競技が転換したフットボールスタジアムに開催が集中することで、他の陸上競技場を借りやすくなるというメリットもある。また、等々力陸上競技場では、フットボール場に転換する計画を行っているが、その際にサブ陸上競技場の施設を増設する工事が行われる予定があるなど、陸上競技に対するケアもされていることがある

デメリット

しかし、こういったスタジアムの転換には問題点が多くはらんでいる。

まず、そもそもそのスタジアムで陸上競技の開催が困難もしくは不可能になることだろう。フットボール場にする際に観客の視認性のためにスタンドをフィールドに近づけなければならない関係上、陸上トラックを撤去もしくはトラック上に仮設席を設けなければならない。
例えば、イギリスのロンドン・スタジアムでは、陸上競技場用のスタンドに仮設席をくっつけるもしくはトラック上に仮設席を置くという形でなんとか両立を図っているが、陸上競技への転換に時間がかかるため、サッカーやラグビー以外のイベントはサッカーのシーズン間である夏に限られる。
また、いざフットボール場に完全転換しようにも陸上競技関係者・団体との調整が必要となることが多い。

もう一つは、工事が必要になるということだろう。
フットボール場と陸上競技場では、競技場に必要なフィールド面積や形状がかなり違ううえ、求められる会場の勾配もかなり違う。スタジアムとしての最適化には地面を掘り下げたり、スタンドを壊したうえでフットボール場として再構築する必要性がある。そのため、多額の資金が必要になることから、国際大会の開催が決定されてようやく工事となるケースも多い。
新たに席を増設することで工事を減らすことも可能ではあるが、観客席からフィールドまでかなり遠くなる、勾配が無く試合が見えづらいという弊害が生じることがある。

また、開催できるイベントが減るということもありうる。陸上競技場では芝生への負担をある程度制限しつつ、トラック上でコンサートや地域イベントなど様々なイベントを行うことができた。
しかしながら、全天然芝化すると、プロサッカー開催などの関係で芝の養生期間を設けなければならず、その養生期間中はスタジアム内で全くイベントが開催できないということもありうる。また、台車などが使えないため、設営・撤収作業が難しくなることもある。
さらに、寒冷地におけるサッカーにおいても、陸上競技場であれば雪をトラックに仮置きすることができるが、サッカー場であると、フィールドを狭くしている関係上、雪を除雪した後に雪置き場が不足することもありうる。最も、このような状況下でサッカーができるのかという疑問はある。

まとめ

今後、スタジアムの転換というものはどんどん進んでいくと個人的には予想している。しかしながら、それらには様々な障害をはらんでいる。実際、国立競技場は一旦は球技場化するとしていたが、撤回している。
一概にどちらのスタジアムがいいかはわからない。だが、一つだけいえることは、どちらにせよ、「見るスポーツ」をしっかりと考慮したうえで、予算をできる限り抑えたうえで、大規模スタジアムを建ててほしいという思いだけだ。

参考資料

相模原市「横山公園陸上競技場再活用方針」

カナロコ「人工芝グラウンド完成 横山公園で式典」https://www.kanaloco.jp/sports/entry-10564.html

怪鳥とリトルのFC東京応援記(※画像検証) http://tokyo.world.coocan.jp/index.htm

奥アンツーカー「「味の素スタジアム」完成」http://www.oku.co.jp/news/2012/0512.html

陸連時報2017年3月号、P177「公認が廃止となった競技場及び長距離競走路」

qoly「新国立も?陸上トラックを撤去して「サッカー専用」になったスタジアム10選」https://qoly.jp/2020/11/07/world-football-stadiums-oks-1

THE STADIUM HUB「レアル・ソシエダ、サッカー専用スタジアムへと生まれ変わった本拠地に帰還」https://stadium-hub.com/00497.html

webスポルティーバ「久保建英が活躍中のレアル・ソシエダの「エスタディオ・アノエタ」は美しいビーチが続く高級保養地のスタジアム」https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/football/wfootball/2024/09/25/12/?

経済地理学年報 第66巻 p73-89「五輪レガシーの再生の試み ―モントリオールとシドニーの五輪スタジアムを事例に―」(岡田功)(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaeg/66/1/66_73/_pdf

BASEBALL GATE「2019WBSC プレミア12開催球場の今を紹介 ~エスタディオ・チャロス・デ・ハリスコ~【WORLD BASEBALL vol.27】」https://baseballgate.jp/dailybg/worldbaseball/722562

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