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ダイナミックプライジングとは何か

近年プロ野球界で論争のひとつとなっている、ダイナミックプライジング。やれ値上げだ、やれ金稼ぎだなどと言われている。

しかしながら、そもそもダイナミックプライジングがなんなのか、考えていきたい。

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概要

そもそも、ダイナミックプライジングとは、「価格を変更して需要を調整することによって、限られた供給量の中で収益を向上させる施策」である。

近年のビックデータ解析や人工知能の進化に伴い、ダイナミックプライジングを導入する業界は増えており、スポーツをはじめとするエンターテインメント業界などでもダイナミックプライジングが増加している。

日本における歴史

ダイナミック・プライジングの歴史は古い。

昔から、よくスーパーや青果店などで、閉店直前に惣菜に半額札が貼られるという「見切り品」販売が存在するが、それはダイナミック・プライジングの一つである
店側にとっては、閉店間際かつ商品の劣化が始まっているという、収益を得られるか否かという状況下で満額の収益を捨ててでも幾ばくかの収益を得たいという考えの基で、セールを行っている。これにより、下がっている需要に供給を合わせるかたちで収益を挙げることができる。

また、旅行業界の繁忙期・閑散期価格もダイナミック・プライジングの一種であろう。季節・繁忙期・週末や連休といった条件で値段を上げ下げしている。旅行会社で色分けされた日程表を見たことがある人も多いだろうが、それはダイナミック・プライジングの結果一覧表と言える。

スポーツにおいても、昔から平日・週末料金があり、ダイナミック・プライジングはこの時点から始まっている。
2009年には、カテゴリーに振り分けて値段を変える、フレックスプライス制を東北楽天ゴールデンイーグルスが導入。例えば、平日の不人気チームとの試合は一番安く、グッズの無料配布日や人気チームとの試合であれば最高額といった形でチケット代を変えるという手法で、2010年代後半には主流となった。
2016年から、福岡ソフトバンクホークスがAIによるダイナミックプライジングを導入。その後、2020年の新型コロナウィルスの流行による観客制限や減収があったことから、収益の最適化のために多くの球団が導入していった。また、JリーグやB.LEAGUEの一部チームでも2019年から導入を開始した。

メリット

最大のメリットはやはり、収益の最大化である。

需要が高い試合では価格を上げ、逆に需要が低い試合では価格を下げて販売することで、全体としてチケット収入を最大化できる。
2019年7月16日にオリックス・バファローズがダイナミックプライシングの実証実験を行ったところ、ダイナミックプライシングを使わない場合に比べ、チケットの平均単価は2%下がったものの、チケット収入が14%増加した。オリックスは、お世辞にも人気チームとは言えず、常日頃から集客に苦戦していた中での出来事だった。
また、ビジターチーム用に設けられた座席の方が人気が高い場合はビジター側の席を高くすることもあり、自チームファン以外からの収益も増やせる。

また、空席の減少・動員数の最適化も可能だ。

チケット価格を操作することで、平日の不人気チームとの対戦や消化試合といった空席が目立つ試合でも値下げによって観客動員数を増やすことが可能となる。そうして呼び込んだ観客がスタジアム内で飲食物やグッズを買うことで、物販収益を増加することができる。
また、スタジアムを満席状態にすることで「スタジアムが満員になるほど人気のチーム」というシグナリング効果を世間に発することができる。

ファンにとっても選択肢の多様化による便益が得られる。

ファンのニーズや購入履歴などの情報を取り入れることで、希望に合った座席を適正な価格で選びやすくなることが期待される。
一部のチームは、応援文化等によって外野席の価値が高いチームも存在するが、外野席と内野席を同額ないし後者を安くすることで、観戦スタイルに応じて最適な席が選択できるようになることが期待され、初心者が慣れない応援席でのトラブルを未然に防ぐことも可能だ。

デメリット

デメリットとしてはチケットの高騰化がある。

週末の試合や人気チームとの対戦などの需要が高い試合では、外野席でも1万円を超えるケースがあるなど、チケット価格が大幅に上がるケースが多発することがあり、需要を超えた金額(供給)であると、購入者が減って収益が減少することもある。
さらに、ファンクラブ優先販売やなどので売れることで新規や家族連れなどのライト層のファンが離れる懸念がある。

料金計算の不透明さも問題だ。

近年のダイナミックプライジングはAIによって行われているが、球団によっては基準となる金額は発表していないことすらあり、あまりにも不透明である
値段を決定する計算方式は企業秘密であるはずで、明らかになることはないだろうが、チケットが売れていないにもかかわらず、金額が上昇を続けている場合にも説明がないため、ファンの不安からの反発は否めない。

また、購入タイミングによる損得感情の発生もある。

実際、選手の欠場や天候不良などを理由に値段が下がることは一部チームのダイナミックプライジング紹介ページに掲載されている。購入した翌日に人気選手が負傷して需要が下がり、チケット代が下落するということもありえ、そうなれば、「買うのは少し待てばよかった」という考えにもなり、その後の買い控えにも繋がりかねない。
特にとある東京ヤクルトスワローズの主催試合では、一時10000円以上で売られていた外野席が試合終盤に500円で投げ売りされるなど、早めに買った客が馬鹿を見る事態にもなった。

最後に

ここまで、ダイナミックプライジングの功罪を考えてみたが、そもそもダイナミックプライジングという売り方自体が日本に合っているのかという疑問が湧いた。

アメリカでは、4大スポーツ(NFL、MLB、NBA、NHL)のほとんどのチームがダイナミックプライジングを導入しているが、アメリカのチケット文化としてシーズンシート販売が中心であるということを念頭に置かなければならない。その為、シーズンシートの価値を高めるためにダイナミックプライジングを行っているという側面があり、チケットの値段を少し上げるという形に抑え、シーズンシートや先行販売などで購入した人を優遇している。
日本ではシーズンシートはあまり浸透しているとは言えない。日本のスポーツにおけるダイナミックプライジングは単なる需給調整に過ぎず、先行しての購入者に優遇が無いことも問題といえよう。

とはいえ、ダイナミックプライジングが悪いわけではない。
本当に問題なのは収益体系だろう。アメリカと日本をスポーツにおける収益を比べると、放映権など、入場料収益の以外にメスを入れるべきでは無かろうか?NPBに限った話だが、12球団で統一した放映権はない。まずはそこを考えるべきだ。

また、物価も上がっており、1円の価値は10年前と比べて下がりつつある。これは世界的にも言えることで、我々ファンはダイナミックプライジングがどうこうより、物価の上昇によってそもそものチケット料金が高額になっていることを理解せねばならない。ダイナミックプライジングという考え方がなく、固定された金額であろうと単純にチケット代は値上げされていたに違いないだろう。

ダイナミックプライジングが悪ではない。ではどれが悪かといえば、日本とスポーツ界を取り巻く景気かもしれない。

参考資料

三菱総合研究所『ダイナミックプライシングの活用最前線 第1回 ダイナミックプライシング、陥りがちな「落とし穴」とは』https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20250516.html

マーケトランク『ダイナミックプライシングとは?基本的な仕組みと事例を解説』https://www.profuture.co.jp/mk/column/what-is-dynamic-pricing

東洋経済オンライン『人気沸騰のプロ野球チケット販売に起きる進化』https://toyokeizai.net/articles/-/309879?display=b

AERA『プロ野球の「ダイナミックプライシング」に疑問の声続出 あまりの高騰ぶりに条件の詳細説明が必要か』https://dot.asahi.com/articles/-/255606?page=1

集英社オンライン『〈価格変動制の弊害〉プロ野球のチケット高騰化でファン離れの危険性も…その一方で巨人がダイナミックプライシングを導入しない理由』https://shueisha.online/articles/-/253933

千葉ジェッツふなばし『[9/4更新]【チケット】価格変動制「ダイナミックプライシング」及び「公式リセール」導入について』https://chibajets.jp/news/detail/id=18099

REAL SPORTS『今のままでは機能しない? ダイナミックプライシングの日本で誤解されがちな運用とは』https://real-sports.jp/page/articles/327020551308575996

鈴木友也の米国スポーツビジネス最前線『米スポーツ界に革命を起こしたダイナミックプライシング(上)』https://www.transinsight.jp/blog/?p=785

Cross Marketing『ダイナミック・プライシングとは?注意点や成功事例を解説』https://www.cross-m.co.jp/column/marketing/mkc20221014

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