6月、広島県福山市に本拠地を置く福山シティFCが新しいサッカースタジアムを2年後に完成させる計画を発表した。
しかし、「福山シティFC」というチーム名を聞いたことがない人も多いだろう。実際、このチームは5部相当の中国サッカーリーグに所属する社会人チームであり、お世辞にも全国的な知名度はほとんどないチームである。
5部の、定義上セミプロのチームがスタジアムを作るというのはビックマウスに聞こえる。
しかし、勝算が無ければそんなことはとても言えないはずだ。どこかに勝算があるからこそこの案を発表したに違いない。
では、勝算はどこにあるのだろうか?
スタジアム建築の高いハードル
勝算を探る前に、まずはスタジアム建設の困難さを整理しておこう。
建設費
まず、建設費が高いことが挙げられる。サッカースタジアムの建設費は大抵数十億円は下らない。J3ライセンスをギリギリ満たすようなスタジアムでも10億円は必要であり、J1リーグのライセンスを満たすスタジアムを建設するには100億円かかるケースもあり、こうした巨額の建設費確保は、J3以下のサッカーチームの経済規模では極めて困難だ。
さらに、スタジアムには広大な土地が不可欠となる。フィールドだけでも115×88m(約1万㎡)が必要で、そこに観客席を設けるため、1.5~2万㎡以上の土地、しかも形状的に適した土地が求められる。
民設民営には限界があるため、基本的には公共施設として地方公共団体などに資金調達や土地確保を依頼する。しかし、チームの実力不足、採算性への疑問、自治体のスポーツ施設建設への消極的姿勢などが重なり、計画が停止したり頓挫するケースもある。
民間主導の建設であっても、土地確保などで自治体の協力は不可欠であり、結局のところ首長の意向に左右されることが多い。
採算性
次の問題としては採算性が挙げられる。
基本的に多くの施設は採算性が重要となる。民営の施設でそれが悪ければ閉鎖に追い込まれ、公営でも「ハコモノ行政」などとされて大きな批判の的となってしまう。プロスポーツという興行が行えるスタジアムであればなおさらだ。
そのような中で、サッカーのリーグ戦は、男女合わせて年間多くとも40回程度という欠点がある。もちろんこの数字を増やすことは難しいが、稼働率(スタジアムを貸している=収益を得ている日の割合)にすると11%程度だ。残りの89%はただそこにあるだけと言える。
また、サッカースタジアムは利用目的がサッカーやフットボールのみに限定されることが多く、年間の興行数(アマチュアを除くイベント数)が先ほどの数字に落ち着いてしまうことが多い。
また、Jリーグ開催前後や冬の間は芝の養育のために施設が閉鎖される。また、ステージ設営が必要となる音楽ライブも芝生を考えると開催できない。さすなれば、サッカー場が占有施設と扱われてしまうケースもありうる。
もっとも、市民開放を多く行っている公営スタジアムもあり、一概には言えない。
一方、アリーナはプロスポーツでもBリーグやSVリーグが年間それぞれ70試合程度はあり、それ以外にも武道や格闘技などの競技があることからスポーツイベントが多く、音楽ライブや各種集会などが行われることがあるために稼働率は高くなることが多い。スタジアムより省スペースの土地で建てられる上、最近の屋内スポーツ競技のブームやMICE(多くの集客交流が見込まれるビジネスイベント)の需要拡大という追い風の中、稼働率がサッカースタジアム以上に高いアリーナは重宝されており、全国各地でアリーナの建設計画が活発化している。
スタジアムがあることによる利点
ここまで、サッカー場に関する欠点を書いてきたが、その欠点に匹敵あるいはそれを上回る利点も数多く存在する。
集まる場所としてのスタジアム
まず、スポーツには集客性があるということだ。
スポーツはする・みる・支えるという考え方があるが、それ以上に「集まる」という大きな注目すべき点がある。
今年度の国会でスポーツ基本法が改正された。これまで「する」「みる」「支える」の3つがスポーツの役割とされていたが、そこに「集まる」「つながる」が追加された。スポーツには「集まる」というパワーがあることを国家として認めた形となる。
年間20回も1万人以上が同じ目的をもって訪れる施設はなかなか存在しない。首都圏でもある程度に限られ、地方となればなおさら貴重な存在となる。
例えば、鹿島アントラーズ本拠地の本拠地である鹿嶋市は人口6万人ほどであるが、アントラーズの試合日には人口の半分に当たる3万人以上がスタジアムに集うこともある。それ以外でも、Jリーグに所属するチームは、どのような街でも毎試合数千~数万のファンを集客している。
また、スポーツにおける特徴として「アウェイツーリズム」があり、対戦相手のファンが観光客としてスタジアムがある地域を観光することが挙げられる。
高知ユナイテッドの事例では、2025年のJリーグカップにてガンバ大阪と対戦した際、2000人ものG大阪サポーターが試合前後や翌日に高知を観光しており、消費活動を行ったことが報道された。さらに、2011年には、約2000人もの当時J2だったFC東京のサポーターがJ1復帰の瞬間を現地で見届けようと、東京から試合開催地である鳥取に観戦に訪れた。その際、同地で各種消費活動を行った結果、鳥取市内では間接的なものを含めると、4000万円もの経済波及効果が生まれたと試算されている。
このように、試合日には地域住民を中心に多くの観衆が集まった上で、県内外からの観光客も増えることが多い。スタジアムには求心力がある。
街づくり
さらに、スタジアムは街づくりの地力がある。
サッカースタジアムを核にした街作りの事例は多く、広島市の「エディオンピースウィング広島」は、広島城からすぐ、中心地として栄えてきた紙屋町・八丁堀エリアから徒歩圏内という好立地に建設された。

開場後、試合日には観戦帰りの観客らがスタジアム周辺の市街地を回遊。観戦チケットの提示で割引などのキャンペーンなどの施策も実施しており、周辺の商店街の利用客は以前の2倍になるなど、広島市内への経済に大きく貢献している。
ある試合を対象に行った調査では、経済効果はJリーグ1試合あたりで推定約11億円だったが、スタジアム外でのそれは8億円と試算された。
また、原爆ドームからは徒歩10分、平和記念公園から徒歩15分という立地から、そのスタジアム名の通り、平和の発信地としての役割も担っている。
もちろん、それ以外にもスタジアムを活用した街づくりは多く行われており、他種目の話になるが、プロ野球・北海道日本ハムファイターズは北広島市に移転した際、市から提供された広大な土地に野球場「エスコンフィールド」を中核施設とし、宿泊施設や商業施設、マンションなどを建設し、世界でも有数のスタジアムを中心とした街作りを実施。野球ファンで知らぬ人はいない町を作り上げ、開業から3年足らずではあるが、スタジアムによる街づくりの成功事例となっている。
国外でも、スタジアムを中心とした都市開発が行われることが多い。
例えば、「ザンクト・ヤコブ・パルク」はスタンド部に高齢者用の集合住宅やフィットネスクラブが、地下にはショッピングモールが併設され、一つの複合地区を形成している。
このように、大規模なスタジアムに商業施設を併設するケースは多く、日本でも、2024年に開場した「長崎スタジアムシティ」がショッピングモールやホテルなどをスタジアムに併設している。これはスタジアムの欠点である稼働率も解決している。
また、イギリスの「ウェンブリースタジアム」では、”Wembley Regeneration Project”のランドマークとしてスタジアムが再建され、スタジアムを基盤に街づくりを実施。結果、スラム化しつつあった元工業都市を復興させることに成功している。
スタジアムを中心とした街づくりの事例は世界各地で行われており、アメリカでは複数競技の本拠地を絡めて市街地を活性化させている。
このように、スタジアムを中心とした街作りは多くの事例が存在する。
まとめ
福山シティFCがスタジアム建設に踏み切る背景には、スタジアムが単なる競技場ではなく、地域社会に多大な価値をもたらすという確信があると考えられる。
サッカー場には、人々を「集める」求心力と、街を「つくる」地力がある。
年間20回程度の試合開催だけでも、数千、数万もの人々がスタジアムに足を運び、地元住民だけでなく、アウェーチームのファン・サポーターも観光客として地域を訪れ、宿泊や飲食を通じて経済を回しており、地方都市の活性化において非常に大きな意味を持ちます。
また、スタジアムを中心とした街づくりは、地域の新たなシンボルを創造し、コミュニティの核を形成します。福山シティFCが描くスタジアム計画は、チームの成長だけでなく、福山という街全体の未来を見据えた壮大なプロジェクトなのかもしれない。
もちろん、数十億円もの資金調達や、スタジアムの採算性といった課題は山積しており、そもそも立地すら決まっておらず、「絵に描いた餅」状態ではある。
しかし、これらの課題を克服し、スタジアムを完成させることができれば、福山シティFCは単なるサッカーチームの枠を超え、福山の街に欠かせない存在となることは間違いない。
福山シティFCのスタジアム計画は、地域に根差したスポーツクラブが、いかにして街の未来を切り開くかを示す、挑戦的なモデルケースとなりうる。
このプロジェクトの成否は、地域住民や行政、企業の協力にかかっており、もしこの挑戦が成功すれば、地方のスポーツクラブが街を活性化させる新たなロールモデルとなると考える。
参考資料

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スポーツ庁,経済産業省. スタジアム・アリーナ改革ガイドブック<第2版>. 平成30年12月(https://www.meti.go.jp/policy/servicepolicy/guide201812.pdf)
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