NPBのプレーオフ、クライマックスシリーズでの横浜DeNAベイスターズが行った座席配置がネット上で議論となっている。
横浜DeNAベイスターズがビジター応援席を従来の外野席から、ウィング席と呼ばれる内野と外野の境目にある、遥か後方の席に動かした。さらに外野席全体をホームファン専用に売り出したことでビジターチームファンを外野席から排斥する形となり、横浜スタジアム47年の歴史で初めて外野席からビジターファンが消えた。これにより、ウイング席を除く一層目を全てベイスターズファンが囲むこととなった。
これについてはクライマックスシリーズ限定の措置と思われたが、年間席購入者への2026シーズンの案内でもこの席割を実施することや、この内容を表示した常設看板も設置されたことで、この措置が恒久的に来年度以降も続くと見られた。
そのこともあって、11球団ファンを中心に不満が噴出し、大きな批判を呼んだ。外野席は古くから応援席であり、それを潰すのはいかがなものかという考えの批判が多くあり、「他球団へのリスペクトに欠ける」という声も多かった。
だが、このことについては様々な利点を含んでいることから、批判覚悟での実施をベイスターズチケット部は春から決めていたという。
では、このような席割を行うことでのメリット・デメリットは何があるだろうか?探ってみたい。
メリット
この席割について、メリットは多い。
挙げられるのは、ホームチームファンによる一体感の形成だ。
ベイスターズの運営側は「勝ちと価値の共創」をテーマに掲げており、その中で、ファンの声援量を最大化させ、チームの勝利を後押しするという考えが起きた。今回の座席設定も運営内からの反発があったものの、協議を重ね、ホームファンの絶対数と声のボリュームこそが勝利を後押しするとして決定した。
元来からベイスターズ横浜スタジアムは三塁側の一部にもベイスターズファン限定の席を設定するなど、横浜第一の考え方を持っているため、このことを大きく加速させたことになる。
ファンにとっては同じチームのファンでフィールドを囲むことで帰属意識も与えることも可能となる。
また、ホームアドバンテージがより強いものになる。
ホームチームファンの歓声を選手に近い場所から多くすることで、選手への後押しを増やす。実際、横浜DeNAの三浦大輔監督も、試合後に「声援で横浜スタジアムを包み込んでくれましたから、頼もしかったです」と口にしている。
今回、この席割変更に伴って一層目は事実上ベイスターズファンのみで染めることが可能となり、360度同じチームのファンでフィールドを囲むことができるようになった。その為、ビジターの選手に対して「四面楚歌」状態を作り出し、精神的な圧力をかけることが可能になった。
この二点により、横浜DeNAベイスターズの勝利へ、ファンが後押しできる環境を成立させることができる。
加えて、ベイスターズファンの需要に応えるということも挙げられる。
先述の通り、プロ野球は外野席で応援するという文化が長らく根付いている。そのため、外野席で立ち上がって応援したいというファンは多いが、横浜スタジアムの観戦チケットは年々プラチナチケット化しており、その中でも外野席は選手に常に声援を送れることから希少性も高い。そこで外野席を全てホーム向けに開放することで、ベイスターズファンの需要に応え、満足度を高めることも可能となる。
このように、横浜スタジアムという存在を横浜DeNAベイスターズのホームとしてより機能させることが可能となり、ベイスターズファンの満足度を高めることができる。
デメリット
ホームに対してのメリットは多かったが、逆にビジターに対してのデメリットが多い。
まず、ビジターファンの観戦環境の著しい悪化が挙げられる。
横浜スタジアムの座席の傾斜は最大30度と日本の野球場の中では急角度であり、その上部後方に設置されているウィング席ともなるとフィールドからの距離と高さがかなりあることから一体感形成が難しく、応援に適さないという指摘もある。
また、上層階隅に追いやられることでよりアウェー感を感じ、孤独さや疎外感を感じる人もいるのではないかと感じる。
ウィング席は新しい席のため、設備や席の間隔などは現代にアップデートされており、観戦そのものはより良いものとなっている。しかし、立つと足がすくむと言われるほどの高さがあって、応援となると応援が届いているかわからないほど遠いために疎外感もあることから、ビジターの応援にとってはっきり言って良いものではない。
また、これまでの文化を破壊する恐れもある。
再三になるが、日本プロ野球は外野席で応援するというのが文化であった。レフト・ライト双方で十分に外野席が確保できるにも関わらず、ビジター用の外野席を設置しないというのはあまり良くなく、50年以上の歴史を破壊しようとしているのではとも思えてしまう。(なお、一部球場では応援席が内野に設置されているが、これは土地や構造などの都合上、外野席が十分に設置できないことが理由にある。)
また、こうした応援文化の破壊は遠征文化の崩壊も可能性としてある。日本スポーツ界は国土が狭いことや長距離輸送網が整っていることも相まって遠征文化が根付いており、これはスポーツツーリズム(アウェイツーリズム)とも言われる一大産業にすらなっている。
しかし、せっかくの応援が選手に届かないとなれば、敵地のスタジアムに行くことも意味をなさなくなり、高額な費用を払ってまで遠征をする人が減ってしまい、スポーツ産業の衰退にもつながりかねない。
まとめ
やはり、こういった突然の変化は良いものではないことが多い。ただ、今回の出来事は敵とは言えない存在を完全に敵に回す事態ではある。
とはいえ、横浜DeNAベイスターズの運営からしてもウィング席へのビジター応援席移動は半ば苦肉の策と言えるのかもしれない。とは言えど、実行してしまったからにはその反応をしっかりと受け止めねばならない。
ホーム一色に染めたい気持ちはあまりにもわかる。だが、実際にそうなっているアメリカとは文化が完全に異なっており、ホーム一色に染めるのはやや早計である。
ビジターファンについての扱いについてもスポーツチームは苦慮しなければならないことを今回の出来事で分かったのではないかと考える。
参考資料
画像:海川凛太朗
【野球】なぜ?DeNAが批判覚悟で横浜スタジアムのCSビジター席移転 SNSで賛否も360度青一色に踏み切った背景
ハマスタ外野席「全面ホーム化」発表に波紋、選手の本音は… CSの席割りに分かれる賛否

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