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スポーツ会場に高額席が増える理由

近年のスタジアム・アリーナには一般席とは一線を画した、VIP席などのラグジュアリーな席を作ることが多い。この傾向は世界的に激しく、新築既存問わずに多くのスタジアムに設置されている。

さらには、法人向けに多くのサービスを付与した「ホスピタリティシート」が設置されている大会も多い。

なぜ、そのような席が増えているのか?考えてみたい。

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主な種類

一口に特別席といっても様々ある。
単に上質な材質を使った席もあれば、テーブル付きで食事が楽しめたり、購入者専用の部屋に入れるパターン、変わり種ではコンシェルジュ付きだったり、バーベキューができる座席もあったりする。

その中でもスタジアムで特に多いのがボックス席とも言われるグループ席だ。これは通常席の数席~十数席分のスペースにだいたい5席分の座席とテーブルなどを設置するというものだ。
既設のスタジアムでも比較的容易に設置できることもあって増加傾向にあり、東京ドームでは開場から30年経過した2022年に一般席だった場所にボックス席を新設した。

また、ここ数年で多くのスタジアム・アリーナが誕生しているが、こうした新設の会場にはスイートルームなどと呼ばれる専用エリアが設置されることが多い。
様々なタイプがあり、専用の部屋で観戦するタイプや座席と部屋を行き来できるタイプなどがある。大抵は法人などの団体向けに販売されることが多い。
こうした座席は、一般席と区切られており、独立した空間・動線でスペースまで行くことができる他、ホスピタリティサービスが充実していることが多く、食事や記念品、専用駐車場などの提供など、一般席以上の非日常体験が受けられる。

増加の理由

こうした座席が増えている理由を少し論じてみたい。

観戦価値向上

スポーツ観戦、特にプロのそれは非日常体験を売っているが、そのような中でさらなる非日常空間とサービスを購入する需要が高まっている。
単にプラスチックのベンチでスペースも狭いうえに、競技スペースから遠く、食事もコーラにホットドッグだと、ノスタルジーは感じられるが、単なる野球観戦以上の魅力は感じられないのは事実だ。
それが革張りかつひじ掛けが付いた席で、選手の動きがしっかり肉眼で見え、食事が高級店に引けを取らないものだったらどうか?付加価値の高い、快適な観戦かつ思い出に残る非日常体験になることは間違いない

また、部屋付きの席だと、心地良い空間の中で知人などと会話を楽しみながら、部屋の外に出て熱狂の渦に飛び込むなんてことも可能だ。さらに、ビジネスで使用されるケースもあり、特別席の周辺が社交場となることもある。そうすると多くの企業重役などの交流の場となり、新たなビジネスチャンスを生む場ともなっている。

こうした特別な体験を売り出すことにより、スポーツ観戦の魅力をより構築することが可能となる。新たなスポーツの楽しみ方の提供という観点からも有効だ。

財務面

財務面でもこうした高額席はメリットがある。

一般席では満たされないニーズを満たすため、こうした特別席は人気がある。そのため、比較的高額な料金で販売をしても売れるため、同じ場所に一般席を設置するよりも一席当たりの収益は高まる。シーズンシート(年間契約)でも人気のものとなっており、チームや会場の固定的な収益にもつながっている。

こうした特別な席は法人の福利厚生や顧客サービスなどにとても有効であり、法人向けに売り出された特別席が売り切れるなんてことも多い
部屋付きの席では会議にも使用できることを謳い、試合開始前に商談、開始後は野球観戦と懇親会という使い方を推進する球団もある。

観客一人当たりのチケット単価がさらに伸ばせるため、こうした座席を増やすことで客単価を増やすことが容易である。チケット収入はチームやアリーナ運営会社が直接コントロールできる収益源であり、チーム強化や施設改修のための安定的なキャッシュフローを生み出すこともあって、近年増えている。

さらに、こうした競技場の建設費は高額化しており、巨額な初期投資を回収し、メンテナンス費用を賄うために、高単価かつ長期契約が見込める高額席からの確実なキャッシュフローが不可欠だ。

ライセンス

こうした座席が作られる背景には、スタジアム・アリーナのライセンスが存在する。

Bリーグは2026-27シーズンからB.PREMIERとして新たなリーグ構造となる。
そこではアリーナ基準が多く盛り込まれている。例を挙げると、「スイート(周囲から独立したスペースと試合観戦用席が併設された場所)があること」、「ラウンジ(飲食や談話するスペース)」があること、それらが全座席の数%を満たすことなどが盛り込まれた。

また、JリーグもVIP席を設けなければならないことが条文に盛り込まれており、厳格なものではないが、ラウンジ席などを設置することが求められており、観戦環境の質向上を推奨している。

最後に

スタジアムやアリーナにおける高額席の増加は、単なる観客の「贅沢志向」の結果ではなく、現代のビジネス環境に適応し、成長を続けるための、「経営戦略」である

顧客単価を最大化し、チームが独自に強化費に充てられる安定したキャッシュフローを確保し、個人の「非日常体験」需要に加え、法人向けの「社交の場」「ビジネス交流の場」という新たな市場を切り開く。また、巨額な建設・改修コストを回収し、リーグ基準をクリアすることで、施設の長期的かつ安定的な運営を可能にする。

高額席は、一般席のファンを切り捨てる行為ではなく、むしろスタジアム全体の収益基盤を強固にすることで、チームの競争力を高め、結果としてより質の高いコンテンツをファン全員に提供するための「未来への投資」でもある。
また、こうした高額席で稼ぐことで、外野席やゴール裏席などを安価にするなど、とても熱心なファンへの還元も可能となり、実際にそれを実践しているスタジアムもある。

スタジアムやアリーナは、単なる競技場ではなく、様々な付加価値を持った「都市型エンターテインメントハブ」になることを求められている。そこには、常に「特別な体験」を提供する席が重要となる。

参考資料

【スポーツ庁】スポーツホスピタリティガイドブック(2025.3)前編

スポーツホスピタリティとは? 取引先や従業員との関係を深める効果的な手段(福岡ソフトバンクホークス)

スタジアムの未来」(Jリーグ)

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