フォーミュラ1、いわゆるF1は、四輪モータースポーツ最高峰の舞台として、世界を転戦しながら最速のドライバーと最高の車両製造者を決める大会である。
F1は車両に関する多数かつ厳しい技術規定がある。しかし、逆に言えばそれを満たしさえすればどのような車を作っても自由である。そのため、作られる車は速さを追い求めた技術の結晶である。
一般的な乗用車の0-100キロ加速は8-10秒程度という中、0から100キロまでわずか1.8秒で到達し、時速300キロを超えるスピードで直線を駆け抜ける。これがF1マシンである。
F1マシンは、私たちの日常とはまったく違う次元で走っている。
製造コスト
では、このような超人的な性能を持つF1マシンには、いったいどれほどの費用がかかるのだろうか?
レッドブルの公表データによると、F1マシン1台の製造コストは1,200万ユーロから1,500万ユーロ。日本円に換算すると、約18億円から22億円である。別の資料では1,200万ドルから2,000万ドル、つまり18億円から30億円、また別なものでは35億円と言われており、半ばブラックボックスとなっている。だが、20億円程度は確実にかかるはずだ。
大抵、国産車であれば200万あれば何かしらは購入でき、高級車と呼ばれるレクサスやBMWでも数百万円から1,000万円程度。最高級のスーパーカーでも3,000万円あれば手に入る。
もしもF1カー1台分を生み出すことができるお金で市販車を買った場合、ホンダ・フィット(約200万円)は1000台前後、レクサス・LX(約1,500万円):F1マシン1台で150台近く、フェラーリ・12チリンドリ(約5,500万円)でも30台購入可能である。
もっとも、部品も高額であり、エンジンやトランスミッションだけで1000万ドル(15億円)を超え、フロントウィングとリアウイングは合わせて20万ドル(3000万円)、ステアリング(ハンドル部)だけでも5万ドル(750万円)以上かかると言われている。
また、維持費も高額だ。
F1マシンの各パーツはたった数回のレース、数ヶ月で寿命を迎える。
例えば、エンジンは6000~8000kmしか持たない。近年寿命を延ばしているとはいえども、これは一般車の1/10以下だ。F1では1グランプリ中に600km以上走行することもあるため、それを当てはめると10グランプリも持たないだろう。また、時にはクラッシュによって一瞬で壊れることもある。
高額な理由
特殊素材
F1マシンは多くの特殊素材が使われている。
F1マシンの車体(シャーシ)は、基本的にカーボンファイバーで作られている。この素材は軽量でありながら鋼鉄の10倍の強度を持つが、一般的なアルミニウムと比べて材料費は数十倍になる。
また、エンジン部品には軽量化のためチタン合金やマグネシウム合金が使用される。これらの特殊合金は、一般車で使われる鉄やアルミと比べて材料費だけで10倍以上のコストがかかる。
精密な製造
F1マシンの部品は全て特注品だ。フォーミュラカーの形状や求められる性能などの観点から、市販車の部品やボディを流用することができない。
そのため大量生産される一般車の部品とは違い、少数生産のため単価が非常に高くなる。
さらに、素材として使用されるカーボンファイバーの成形には、高温・高圧の専用設備で数日間かけて硬化させる工程が必要だ。
また、エンジン部品は、0.01ミリ単位の精密加工が求められる。
もちろん、レース中の性能やドライバーの安全のためにも品質管理も極めて厳格で、わずかな不具合も許されない。一つの部品に対して何重もの検査が行われ、基準に満たないものは全て廃棄される。
まとめ
F1マシンの高額な製造コストは、単なる贅沢品の値段ではない。それは人類の技術力の限界に挑戦した結果なのだ。
軽量化、空力性能、エンジン効率、安全性。全ての要素で最高レベルを追求するため、妥協は一切許されない。そのために投じられる数十億円という金額は、まさに「世界最強の高級車」にふさわしい投資と言えるだろう。
F1マシンは、単なる乗り物を超えた技術の芸術品なのである。

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